キツネの関所

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遠野を通過したとき、高名な道の駅に寄った。
駐車場の傍らに1本280円のトウモロコシがある。
風景を見ながら皮をむいて後部座席にいると、
並走する釜石線に、蒸気機関車がもくもく煙を靡かせて来た。
路肩に何台も駐車しているのは、そういうことだったのか。
カッパ淵や、キツネの関所でトウモロコシを奪われるか、
握り直した旅の空である。
過日、残暑のころ、
ガラスのドアに半身を覗かせる人影が、
「駅に家族を送ってきまして、ちょっと寄らせていただきました」
ご持参の特別カッティング盤から凄まじい音で、マイルス楽団が噴き出した。
「聴かなければ、よかったな」
気を取り直した御仁は言う。
黄色のシャーシとはべつに発注しているアンプが11月には到着すると。
震災が、多くの生活人の暮らしを激変させてはいたが、
かといって、オーディオを忘れるはずもなく、
耳の奥に響く記憶の音像は、人の姿そのものである。
行く川の流れは絶えずして、こしかたと装置の変遷を、
ジャズを聴くように聞かせていただいた。