栗駒の湯 1

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「天然イワナの釣り堀のそばにおいしい食堂がありまして、N先生の画廊で絵画の鑑賞も出来ます」
或る日Royceに登場した謎の人物YO氏は誘ってくださった。
火曜の朝にお迎えの車のドアが開くと、ブッパッ!とカーステレオから御機嫌なジャズがこぼれた。
専属料理任を伴って片雲の風に誘われて訪ねた栗駒高原は、一関から西に30キロほど登った宮城県の国定公園の中にある。
沖縄のヨットハーバーから栗駒に赴任したYO氏は、合掌造りにJBLパラゴンを据えてジャズを鳴らすという雄大な計画を持っている。
「どこかに古い民家があれば手を入れて住みたいものです」
道は次第に標高を上げて景色は変わっていくが、YO氏のお話も耳が放せない。
藁葺きの民家の、障子を開け放した二間続きの畳の上で風に流れるC・ブラウンのユーアーノットザカインドを想像した。
お話を伺っているうち元町や三渓園の話題から、横須賀の生まれであると意外な展開をした。
ヨットを操って航海士の免許を持つYO氏のように、帆に風を受けて人生の船旅、どこに錨を下ろすのか自由な人も居る。
「この谷地は必見です」
栗駒の湿原に白く伸びる丸太道の上を先にたってスタスタと進んで行く半ズボンにデッキシューズ姿の身のこなしは、今もヨットの甲板を歩いているようだ。
リンドウの小さな群落に見とれていたら、何処からやってきたのか、現れては消える旅人の行列と秋の高原をすれ違った。
湿原の散策を満喫して車に戻った一行は、またしばらく山道を行くと、小さな林と丘を越えた木立の中に画家N先生の山荘はあった。
「ここが森のギャラリーです」